第7幕・第2話「社員を迷わせるな!――組織として『戦略』を掲げよ!」
あらすじ
「OEM工場への製造委託」・「ネットショップ開設」・「SNSでの製品PR」などの方法で苦境からの脱出と再起をかける、地方のアパレル企業・有限会社SimDenim。
社内システムの抜本的な改善のため顧問コンサルタントの斎藤が連れてきたのは、「人間とAIが幸せに共存する未来を創る」というビジョンを掲げる生成AI活用コンサルタントM.T.であった。
生成AIの実演として、自らのアシスタントであるAIキャラクター「Omniはん」の会話デモと資料分析能力を披露し1ヶ月間のトライアル契約を獲得したM.T.は、現場と協力しながら「海外OEM工場に対しての英文メール作成」・「デザイナーに対し、新商品へのアイディア出しに協力する」などのAI活用法を提案し、評価を高めていく。
一方で、SimDenim社の直営店は「薄利多売と店員の疲弊」・「SNS運用の伸び悩み」などの課題を抱えていた。これに対し、M.T.は先輩コンサルタントに「ある計画」を提案し、社長や幹部との会議に臨むのだが--

笑顔が戻った職場
M.T.(破戒僧コンサルタント):
伊藤さんは何かを掴んだようですね。元気な声が、ここまで聞こえて来ましたよ(笑)
佐藤大輔(社長):
(少し恥ずかしそうに)いやはや、お恥ずかしいところを……
M.T.(破戒僧コンサルタント):
いえいえ、社内に活気が戻るのはいいことだと思います。「コンサルタント冥利に尽きる」ってもんですね(笑)
佐藤大輔(社長):
そう言っていただけると、助かります。
M.T.(破戒僧コンサルタント):
こちらこそ、トライアルから本契約に移っていただき、ありがとうございます。社内にもAIを全面導入したそうですね。
佐藤大輔(社長):
ええ、いくつも活用事例が出てきましたので、「投資に値する」と判断しました。
高橋清志(財務部長):
先日の伊藤の「新商品企画」や営業部からの月次売上分析など、書類の質が上がっているのは私も実感しました。勤務時間が目に見えて削減されたわけではありませんが、これはAIの使い方に慣れるための試行錯誤の時間が含まれていると判断しましたので、この先に効率化の結果が出てくるものと思っております。
M.T.(破戒僧コンサルタント):
高橋さんも、長い目で見ていただき、ありがとうございます。
高橋清志(財務部長):
いえいえ。目先にとらわれすぎてもいけませんですからな。
佐藤大輔(社長):
それで、今日は大きなご提案があると、斎藤先生からもうかがっていますが……
斎藤拓也(顧問コンサルタント):
はい。AI活用の手応えは、御社の皆さんやM.T.から聞いております。合わせて、SNSを運用していく際の現場の方々の苦労も報告に上がっており、私も把握しております。
斎藤拓也(顧問コンサルタント):
M.T.と話し合ったのですが、「SNSやネットショップを通じたお客様対応などについては、根本的な改善が必要である」というのが、我々二人の結論です。ですので、御社の皆さんには、負担にはなりますが「一皮むけるための努力」をしていただきたいと思っています。
佐藤大輔(社長):
「努力」と言われますが、一体どのような……。かなり厳しいものになりますか?
佐藤と高橋の両名は、息を呑んで斎藤の返事を待った。
戦略を練り上げよ
斎藤拓也(顧問コンサルタント):
その前に、SNSなどインターネット上で御社が活動していく際に課題となっていることを確認させてください。
・投稿内容の指針が定まってない
・SNS利用者への接し方が定まってない
これらは、「どのような内容の投稿をしたらよいか分からない」・「SNS利用者とどのように交流したらよいか分からない」といった形で、現場の不安や活力低下の原因となっています。判断基準はSNSに取り組む店長さんたちの自己裁量に委ねられているため、負担が大きくなっているのも課題です。
斎藤拓也(顧問コンサルタント):
さらにこれらの問題を深く分析した結果、
・会社としての方向性やメッセージが打ち出せていない
という問題が浮かび上がりました。つまりは、「全体的な戦略の不在」ですね。
サッカーに例えてみると、
・引いて守りを固め失点を最小限にし、素早いカウンター攻撃での得点を狙う:これが組織全体の戦略にあたります
・現在の敵味方選手とボールの位置を把握し、「自分はどう動けばよいか」判断する:これが、店長さんや社員の皆さんの行動にあたります
佐藤大輔(社長):
なるほど。
斎藤拓也(顧問コンサルタント):
もちろん、「監督がピッチの外から細かく指示を出し続け、選手がそれに従う」という組織コントロールの方法もありますが、トップの負担を考えると現実的ではありませんね。
佐藤大輔(社長):
そうですね。当社は社員10名ほどですが、それでも「社長として現場の隅々にまで目を光らせる」というのを徹底できるとは思えません。
斎藤拓也(顧問コンサルタント):
ご理解いただき、ありがとうございます。
佐藤大輔(社長):
つまり、斎藤先生はこうおっしゃりたいのですね? 「現場が自主的に、そして効果的に動けるような戦略を、組織トップとして示す必要がある」と。
斎藤拓也(顧問コンサルタント):
その通りです。
佐藤大輔(社長):
戦略を定めて現場に浸透させることの重要性は分かりました。では、一体どのように戦略を決めていけば……。
斎藤拓也(顧問コンサルタント):
それについては、彼に引き継ぎましょう。
M.T.(破戒僧コンサルタント):
では、私から説明させていただきます。(微笑みながら)ですが、通り一般の戦略論ではありませんので覚悟してくださいね(笑)
佐藤・高橋の両名が無言でうなづくのを確認し、M.T.は話を続ける。
M.T.(破戒僧コンサルタント):
まあ、言葉にすればシンプルです。
・SimDenimを象徴する「メッセージ」を見つけ出す
・「メッセージ」を、商品企画やSNS投稿などに反映させ、活動に一貫性を持たせる
これだけ。
高橋清志(財務部長):
はあ……。
佐藤大輔(社長):
メッセージ、ですか。
斎藤拓也(顧問コンサルタント):
(M.T.を横目で見ながら)(オイオイ、大丈夫なんだろな? こんな光景、以前も見た気がするぜ……)
M.T.(破戒僧コンサルタント):
ここまでだと、通り一般の戦略論と大差ないんですよ。ですが、ここから先が重要。私からの要求は、
メッセージをWHYレベルに磨き上げてください
ってことなんですね。
次回予告と人物紹介
組織として戦略を練り上げることの重要性を説く斎藤。
そして、M.T.の言う「WHY」とは、いったい何なのか……。
次回もお楽しみに!
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