第6幕・第3話「見せろ、コンサルタントの意地――斎藤とM.T.の居酒屋会議」

あらすじ

苦境からの脱出と再起をかける、地方のアパレル企業・有限会社SimDenim。
社内システムの抜本的な改善のため顧問コンサルタントの斎藤が連れてきたのは、「人間とAIが幸せに共存する未来を創る」というビジョンを掲げる生成AI活用コンサルタントM.T.であった。

生成AIの実演として自らのアシスタントであるAIキャラクター「Omniはん」の会話デモと資料分析能力を披露し、1ヶ月間のトライアル契約を獲得したM.T.。

その後、M.T.とOmniはんは「海外OEM工場に対し、商品サンプルの縫製ミスを指摘する英文メールを作成する」・「デザイナーに対し、新商品へのアイディア出しに協力する」などで結果を出し、評価を高めていくのだが――

フォトリアリスティックな画像。和風居酒屋のテーブルに置かれたノートパソコン。画面にはSNSのフォロワー数レポートが表示され、右肩下がりの傾向を示している。

そして、時は現在に戻り――
岡山市内の居酒屋。平日とあって客もまばらな店内に、SimDenimの顧問コンサルタントである斎藤と、その後輩であるM.T.が向かい合って座っている。

M.T.(破戒僧コンサルタント):
(屈託のない笑顔で)いやあ、斎藤センパイが居酒屋までおごってくれるなんて……ごちになりやした。……久しぶりに下津井のタコを食べたけど、やっぱ美味えや(笑)

斎藤拓也(SimDenim顧問コンサルタント):
おう、その腹立つくらいの図々しさ、昔と変わってなくて安心したぜ、バッキャロー(笑)

……で、呼び出したからには、タダメシ狙いじゃなくて他に目的があるんだろ?

M.T.(破戒僧コンサルタント):
居酒屋をミーティングの場所に選んだのはセンパイっしょ? というか、よくぞお見通しで(笑) 
先日SimDenim岡山表町店の店長さんにお会いして色々と聞いてきたんスけど、SNSの使い方に思うところがあったんで、センパイはどういう指導をされてるのか、直接聞いてみたかったんスよ。

斎藤拓也(顧問コンサルタント):
(いぶかしげな顔で)……どういうこったよ?

M.T.(破戒僧コンサルタント):
(スマホの画面を見せながら)いやね、表町店のXアカウントをリサーチしてみたら、接点の薄そうなアカウントもたくさんフォローしてたので気になりまして……店長さんご本人に訊いてみたんスよ。
センパイは「とにかく『岡山』とか『デニム』とか共通項をキーワードに検索して、ヒットしたアカウントをフォローしなさい」って指導されとったみたいッスけど……表町店がフォローしてるアカウント、センパイは詳しく確認しました?

斎藤拓也(顧問コンサルタント):
……あー、まあ数くらいはな。1ヶ月で500アカウントくらいはフォローを増やしてただろ、表町店。「変な投稿で炎上した」なんて話も聞いてないぜ。何か問題なのか?

M.T.(破戒僧コンサルタント):
まー、簡単に言うと「量よりも質の問題」ッスね。表町店さん、確かに「岡山」とか「デニム」といったキーワードで検索してヒットしたアカウントをフォローしてるみたいッスけど、「岡山で活動している企業の公式アカウント」なんかが幾つもあるし、「潜在顧客や既存顧客との交流ツール」として使う目的に照らしたら、属性として微妙じゃないッスか?

M.T.(破戒僧コンサルタント):
詳しく話を聞いてたら、「別のデニム系アパレル企業のアカウントまでフォローしてしまい、『なんでウチのアカウントをフォローしたんですか?コラボでも企画されてるんですか?』ってDMで聞かれ、『ごめんなさい!』って返信した」こともあったそうッスよ。

斎藤拓也(顧問コンサルタント):
ブッ……ゲホッ、ゲホッ!

M.T.の指摘に、斎藤は烏龍茶を飲むのを止めてむせかえってしまった。

M.T.(破戒僧コンサルタント):
そんな感じで属性の不一致もあってか、フォロー/フォロワーの比率は538/144ですか。あんまり良くはないですよね。表町店だけではなく、北千住店や埼玉店のアカウントにも共通する傾向ですけど。

斎藤拓也(顧問コンサルタント):
(おしぼりで口元を拭い)あー、そいつは次回訪問時に改善を提案しとかねーとヤベーな。

M.T.(破戒僧コンサルタント):
あと、どのお店のアカウントも「新商品が入荷しました」とか「◯日からセールです」とか、一方的な内容のポストばかりッスよね。他のアカウントにリプライやリポストを飛ばしてない。

M.T.(破戒僧コンサルタント):
(スマホを操作しながら)……北千住店の店長さんは頑張っているみたいだけど、「新作ジャケット着てみました。似合ってるかな?」っていうお客さんのポストに対し、無言リポストしかしてないのはもったいないなーって。
「ありがとうございます」の一言だけでもいいし、「ボトムスとの合わせ方が素敵です!」みたいに一歩踏み込んだ内容の引用リポストにしたら、元ポストの人も喜んでエンゲージメントが上昇するんじゃないッスかね?

斎藤拓也(顧問コンサルタント):
(平静を装いながら)……なるほど、確かに一理あるな。

M.T.(破戒僧コンサルタント):
SNSって「接客の場をネット上に移す」行為っしょ?無言リポストって、例えるなら、「お客さんに『似合いますか?』って聞かれて、笑ってうなずくだけで終わる」感じっスよ(笑) 
何か一言だけでも気の利いた言葉を添えるだけで、「また来たい」って思ってもらえる接点になるのに、もったいないっスよね。

斎藤拓也(顧問コンサルタント):
あー……そうだな。今度のコンサルの時に改善を提案するわ。

M.T.(破戒僧コンサルタント):
まー、でも、店舗の視察報告を聞く限りでは厳しそうッスけどね。埼玉店は薄利多売で商品をさばくのに精一杯。時間的な余裕はなさそう。北千住店と表町店は、SNSの知識・投稿やリポストへの明確な方針が定まってないので、効果的に動けない。ここは、トップダウンで方向を示して上げる必要はありますけど。

斎藤拓也(顧問コンサルタント):
……なるほどな。

M.T.に秘策あり?

M.T.(破戒僧コンサルタント):
ここまでSimDenimに関わってきて思ったのが、「小手先の改善じゃダメだ」ってことッスね。ほら、言うじゃないッスか。「問題の枝葉にハサミを入れる人は1000人居ても、問題の根っこに斧を振るう人は1人か2人だ」って。

斎藤拓也(顧問コンサルタント):
また小難しい例え話を……「根本的な改善に取り掛かれる人間はごくわずか」ってことか。

M.T.(破戒僧コンサルタント):
ええ、そういうことッス。

斎藤拓也(顧問コンサルタント):
じゃ、どうすんだよ? 何か策はあるのか? (厳しい顔をして)お前をあの会社に紹介したのは確かに俺だが、あんまりメチャクチャやってメンツを潰されるようなマネされるのは……

M.T.(破戒僧コンサルタント):
ご祝儀案件関係なしに、紹介者のメンツを潰すようなことはしませんよ(笑) ただ、「ビルド&スクラップ」の苦労をしてもらうことにはなりそうですけどね。

M.T.(破戒僧コンサルタント):
具体的には……

M.T.は斎藤に対し、プランを話し始めた。

居酒屋店員:
失礼しまーす。ラストオーダーのお時間ですが、何かご注文は……あのー……

斎藤拓也(顧問コンサルタント):
……マジかよ? ……ホントにやれるのか?

M.T.(破戒僧コンサルタント):
「絶対に上手く行きます!」なんて確約できませんけどね。僕がズバリ言い切れるのは、「太陽は東から登る」とか「人はいつか必ず死ぬ」レベルの真理だけッスから(笑) でも、取り組んでみる価値はありますよ。

居酒屋店員:
あのー、お客様~?

M.T.(破戒僧コンサルタント):
「WEBマーケティングのプロ」として、乗ってくれますよね、斎藤センパイ?

(店員に対して)あ、すみません。シメにアイスください。

(斎藤に対して)センパイもどうっすか、シメのアイス?

斎藤拓也(顧問コンサルタント):
(苦笑いしながら)テメー、俺のおごりだっての忘れたのかよ(笑)!

(店員に対し笑顔で)あ、すみません。待たせちゃって。僕もアイスを。

斎藤拓也(顧問コンサルタント):
(不敵な笑みをM.T.に向けながら)いーじゃねーか。乗ってやんぜ! デザートのアイスにも、お前の計画にも!!

斎藤拓也(顧問コンサルタント):
お前の計画が上手く行ってSimDenimが立ち直ったなら、ご褒美にステーキでもなんでもおごってやる! その代わり、手は抜くんじゃねーぞ!

次回予告と人物紹介


はたして、M.T.の計画とはどのようなものなのか――?

次回もお楽しみに!

登場人物の紹介は、こちらからどうぞ