第4幕・第2話「社内通訳者不在――ピンチを救ったのは!?」

あらすじ

バブル崩壊・円高不況・リーマンショック……次々と襲い来る苦境を何とか乗り切り、「OEM工場に製造を委託し、自社は商品開発と直営店運営に注力」・「ネットショップ開設」・「SNSでの製品PR」などの方法で生き残りと再起をかける、地方のアパレル企業・有限会社SimDenim。

社内システムの抜本的な改善のため顧問コンサルタントの斎藤が連れてきたのは、「人間とAIが幸せに共存する未来を創る」というビジョンを掲げる生成AI活用コンサルタントM.T.であった。

SimDenim社の社員たちを前に、「生成AIによる業務の効率アップと社内システムの改善」を提案するM.T.。そして彼は、生成AIの実演として自らのアシスタントであるAIキャラクター「Omniはん」の会話デモを披露し、社員たちの興味関心を引き出すことに成功する。

AIとしての実務能力だけではなく、インターフェイスとしての設計も評価したSimDenimの佐藤社長は、お試しとして1ヶ月のパートナーシップ契約を結ぶのであった。

その数日後、SimDenimにまたもやトラブルが襲いかかる――

通訳者Omniはん

「製品サンプルに縫製ミスを見つけたが、それを英語で指摘することができない」
そんな困惑顔の伊藤に声を掛けたのは――

M.T.(破戒僧コンサルタント):
お困りのようですね。でも、英語でのメール作成なら、Omniはんでも可能ですよ。

伊藤由香(企画開発部長):
(驚いた様子で)え!?

オフィス内の視線が、伊藤とM.T.に集まる。

M.T.(破戒僧コンサルタント):
伊藤さん、まずはメールの下書きを日本語で作ってください。「問題点の指摘・修正案」など、箇条書きで構いません。
受取人の名前もお忘れなく。とりあえず受取人名は “John Doe” に、品番や写真名も置き換えておいてください。生成された後に正式名へ置き換え――これで個人情報の漏洩リスクは抑えられます。

伊藤由香(企画開発部長):
分かりました。(キーボードを打ち始める)

  • John Doeさんへ
  • 先日届いたサンプルXX-XXXに縫製のミスを発見
  • 裏側のステッチにはTkt.No.30・カラーはR33を使用するよう、当社は依頼していた
  • 送られてきたサンプルには、ステッチ部分に水色の糸が使われているのを確認
  • 当社の最初の指定通りに縫製してほしい

伊藤由香(企画開発部長):
(M.T.を見やって)これでいいの?

M.T.(破戒僧コンサルタント):
可能なら、

  • 証拠としてのサンプルの写真添付
  • なぜそこまでこだわるのか
  • 要求が守られない場合のペナルティ

にも言及した方がいいかもしれませんね。

伊藤由香(企画開発部長):
りょーかい。

  • 証拠として、サンプルの問題箇所の写真も添付します
  • ジーンズの裾を折り返しての丈の調整やファッションアピールをする人もいるので、裏側の縫製もいい加減にはできません
  • 修正に応じてくれないなら、納品単価減額も検討しますよ

これでいいかな?

M.T.(破戒僧コンサルタント):
ええ。この内容でOmniはんに英訳してもらいましょう。

M.T.(破戒僧コンサルタント):
(伊藤の文案をコピー&ペーストし)Omniはん、この内容で英文のメールを作って。

Omniはん(ChatGPT4o・AIアシスタント):
 へい、お待たせ〜。バングラのJohn Doeさん宛てのメール翻訳、うちに任せといてな。
さっそく、内容を確認させてもらうで~。

(ほんの数秒のタイムラグのあと)
ふむふむ、状況は了解。ほな、英語にしてみると……こんな感じになるで:


Subject: Urgent: Stitching Error in Sample XX-XXX

Dear Mr. John Doe,

We have identified a stitching error in the sample XX-XXX recently delivered.

According to our original specifications, the backside stitching should use thread type Tkt.No.30, color R33 (red). However, the sample you sent appears to have been stitched with a light blue thread instead.

For your reference, we are attaching photos clearly showing the discrepancy.

Please understand that many of our customers adjust or fold the hems of their jeans to showcase the inside stitchwork. Therefore, we cannot accept any deviation from the original design.

Unless this issue is resolved and future samples meet our exact requirements, we may have to consider a reduction in the unit price for future orders.

We hope for your prompt action to correct this matter.

Best regards,
[Sender’s Name]
Product Development Manager
[Company Name]


 どやっ。ちゃんとビジネス調やし、クレームも丁寧に伝えつつ交渉のカードも忍ばせとるで。

M.T.(破戒僧コンサルタント):
(英文を読みながら)うんうん、キチンと訳せてますね。

伊藤由香(企画開発部長):
(驚いた様子で)え、あなた英語読めるの?

M.T.(破戒僧コンサルタント):
国立の外国語大学出身ですし、学生時代にTOEICで695点を取ったことはあるので、辞書なしでも大体の意味は分かりますよ。
読めはするけど英作文は苦手なので、誤解を防ぐために、英文はOmniはんに作ってもらうパターンが多いですけど。

伊藤由香(企画開発部長):
はぇー。単なるオタクだと思ってたけど、意外とやるじゃん。

M.T.(破戒僧コンサルタント):
(伊藤の指摘に苦笑しながら)あ、そうだ。クレームばかりだと相手も気の毒だから、現地語での応援メッセージも添えましょうか。

伊藤由香(企画開発部長):
(ちょっと意外そうに)応援……ですか?

M.T.(破戒僧コンサルタント):
(キーボードを打ちながら)「修正に応じるのは大変だとは思いますが、あなた達の努力が両社の明るい未来を築いてくれると信じています」って。Omniはん、これをバングラデシュの現地語に訳せる?

Omniはん(AIアシスタント):
まかしといて〜。バングラの公用語、ベンガル語やね。
訳すと、こんな感じやで:

এই সমস্যা সমাধান করা আপনার পক্ষে কঠিন হতে পারে, তবে আমরা বিশ্বাস করি আপনার প্রচেষ্টা আমাদের উভয়ের জন্য একটি উজ্জ্বল ভবিষ্যত গড়ে তুলবে।

(読み上げ)
“Ei samasya samadhan kora apnar pokkhe kothin hote pare, tobe amra bishwas kori je apnar prochesta amader ubhoyer jonno ekta ujjol bhobisshot gore tulbe.”

ちょっと長めやけど、心は伝わると思うで〜!

M.T.(破戒僧コンサルタント):
おおきに、Omniはん。念の為に別のAIサービスで日本語訳してみたけど、ちゃんと意味の通じる現地語になってるみたいやね。

M.T.(破戒僧コンサルタント):
では伊藤さん、この応援メッセージと縫製ミスの証拠写真も添えた上で、バングラデシュの担当者さんにメールを送ってください。「受取人名・製品コード・送信者名・会社名」などを変更するのをお忘れなく。

伊藤由香(企画開発部長):
分かりましたっ! (パソコンを作業し)ほい、これでいっちょ上がり~。

佐藤千賀子(総務パート):
(やや呆れ気味に)まさか、こんな時代になるなんてねぇ……。

中村美咲(営業部員):
(嬉しそうに)これなら、芽衣ちゃんが戻ってくるまで安心ですね!

M.T.(破戒僧コンサルタント):
「AIは冷たい機械じゃない。人間と一緒に、心を込めて仕事をするパートナーだ」って伝わってきましたかね?

伊藤由香(企画開発部長):
(両手を頭の後ろに組みながら椅子にもたれかかり)いや~、すごいわ、AI。こんなことまでできるなんて

Omniはん(AIアシスタント):

ふふっ、せやけど調子乗ったらあかんで~? あくまでサポート役やからな、うちは(笑)

ドラゴンボールは世界をつなぐ

英語翻訳を担当する鈴木芽衣の不在を、Omniはんの助けで乗り切った伊藤。
そして翌日--

鈴木芽衣(営業部員):
由香さん、バングラデシュからのメールが届いてます。「ご指摘を受けたので、KD-074の裏地のステッチに関しては直ちに修正します。ご安心ください」って。何かトラブルがあったんですか?

伊藤由香(企画開発部長):
ああ、それ? ってか、すぐに修正対応してくれるんか。やるじゃん!

伊藤は鈴木に対し、昨日のトラブル対応に関して報告した。

鈴木芽衣(営業部員):
そんなことが……。(感心したように)でも、すごいですね、AIって。

伊藤由香(企画開発部長):
(誇らしげに)まあ、これで、「あんたの助け無しでも英語のメールが読み書きできる」って分かったから、こっちも大助かりよ!

伊藤由香(企画開発部長):
芽衣の助けを借りることも減るだろうからさ、浮いた時間を引き継ぎに使って、早いとこ美咲と洋平くんを楽にしてやんな!

鈴木芽衣(営業部員):
由香さん……分かりました。頑張ります!

鈴木芽衣(営業部員):
(パソコンに向かい直り、画面を見ながら)あれ、アフマドさん、メールの最後に”ARIGATO KAMEHAME-HA”って(笑)

伊藤由香(企画開発部長):
「ありがとう」は分かるけど、「かめはめ波」ってなんやねん! 「知ってる日本語をとりあえず使いました」ってか(笑)!?

伊藤の豪快な笑い声が、始業後のオフィスに響き渡った。

次回予告と人物紹介


生成AIは世界中の多くの言語に対応しているので、意外な国の言葉でもメッセージを送ることができます。海外への製品のPRなどにも使えそうですね。

生成AIの実用的な使い方でトラブルを乗り切り、伊藤企画部長も安堵したようです。とりあえず、社内が険悪なムードにならなくて良かった(笑)

次回もお楽しみに!

登場人物の紹介は、こちらからどうぞ