第3幕・第3話「一体いくらかかるの?――社長が下した決断は」
あらすじ
バブル崩壊・円高不況・リーマンショック……次々と襲い来る苦境を何とか乗り切り、「OEM工場に製造を委託し、自社は商品開発と直営店運営に注力」・「ネットショップ開設」・「SNSでの製品PR」などの方法で生き残りと再起をかける、地方のアパレル企業・有限会社SimDenim。
社内システムの抜本的な改善のため顧問コンサルタントの斎藤が連れてきたのは、「人間とAIが幸せに共存する未来を創る」というビジョンを掲げる生成AI活用コンサルタントM.T.であった。
SimDenim社の社員たちを前に「生成AIによる業務の効率アップと社内システムの改善」を提案するM.T.だが、生成AIの実演として自らのアシスタントであるAIキャラクター「Omniはん」の会話デモを披露する。
Omniはんとの対話相手に、M.T.は高橋財務部長を指名。小料理屋の女将として、客あしらいから売上データの分析までこなし、能力の高さを見せつけたOmniはん。
彼女のパフォーマンスに対し、SimDenimの佐藤社長は、どのような判断を下すのか――

結局、いくらかかるのか
先ほどまでの和やかな雰囲気とは打って変わって、会議室内にはピンと糸を張り詰めたような空気が満ちている。
佐藤大輔(社長):
そうですね。「話しかけやすいキャラクターを」というあなたの狙いも含めて、AIに対しては可能性を感じました。しかし、本格導入となると、その費用は……そして、どれほどの効果が見込まれるのでしょうか?
M.T.(破戒僧コンサルタント):
そうですね……。(少し考え込んでから)まず費用に関してですが、Omniはんを動かしている生成AIシステム「ChatGPT」は、以下のようなプランと料金体系になっています。
ChatGPTの料金体系
- フリープラン 無料ですが、制限が大きく、実務には向きません。
- プラスプラン 月額20ドル。最新モデル(2025年5月現在)のo3も使えます。
- プロプラン 月額200ドル。制限なく使えるヘビーユーザー向け。
- チームプラン 月額25ドル。組織などのグループで共有して使えます。
チームプランの利用料は毎月25ドル。ですが、年単位の課金となってしまうので、注意が必要です。
なので、まずは会社名義でメールアドレスを1つか2つ用意し、それを使って毎月20ドルの個人向け有料プランで試してみるというのが、無駄にならないと思います。
佐藤大輔(社長):
毎月20ドル……ということは、およそ3000円ですか。何か機能面で制限はありますか?
M.T.(破戒僧コンサルタント):
ええ、個人向けのプロンプトと比べますと、使える高性能モデルの種類が少なかったり、上位モデルに送れるプロンプト-要は質問や指示ですね-の回数に制限があったりします。
ですが、「試しに使ってみて、可能性を探りたい」というのであれば、毎月20ドルのプラスプランでも問題ないと思われます。
佐藤大輔(社長):
なるほど。費用としては柔軟性があるのですね。
M.T.(破戒僧コンサルタント):
そうです。ちなみに、ブラウザ-インターネットでホームページを見るためのプログラム-の上で動作しますので、新しく専用の機材やソフトを導入する必要はありません。「業務用のプログラムと連携させる」などの場合はまた違っていますが、そこはAIの使い方に慣れてから判断されても大丈夫です。
佐藤大輔(社長):
ありがとうございます。初期投資は少なく済みそうですね。そして、費用対効果の「効果」の方は……
M.T.(破戒僧コンサルタント):
はい。効果ですね。それについてですが……
M.T.(破戒僧コンサルタント):
分かりません。
M.T.のバカ正直とも言える発言に、一同は驚いた顔や拍子抜けした顔を見せた。この男に至っては--
斎藤拓也(コンサルタント):
(M.T.に目配せしながら)
(心の声:このバカ! クライアントの前で堂々と「分かりません」なんて即答するヤツがあるか! 少々大げさになってでもいいから、客に夢を見させる数字なり成果を語るんだよ!)
と、内心ヒヤヒヤものである。
斎藤コンサルの心配をよそに、M.T.は口を開いた。
実のところ、どれだけ役に立つ?
M.T.(破戒僧コンサルタント):
「分かりません」では、少し言葉足らずでしたね。「御社の業務において、どのようにAIが活用できるか」は、実際の業務とのすり合わせをしてみないことには、精度の高い予想ができないんですよ。
佐藤大輔(社長):
なるほど。
高橋清志(財務部長):
確かに、一理ありますな。
伊藤由香(企画開発部長):
(小声で)へ~、今度のコンサルさん、見た目によらず現場目線してくれるじゃん。
M.T.(破戒僧コンサルタント):
しかし、文書作成やデータ分析に利用するだけでも、「AI1契約あたり1ヶ月で3時間の作業時間節約」は十分可能と思われます。その人件費の削減だけでも、導入効果はあると考えますが、いかがでしょうか?
佐藤大輔(社長):
そう来ましたか。「まずは小さく始めてみよう」ということですね。AIの利用料に関しては分かりました。(少し厳しい表情をして)……問題は、あなたへの顧問料ですね。既に斎藤先生にはお世話になっていますし、その上であなたと契約となると……
M.T.(破戒僧コンサルタント):
(苦笑しながら)いえ、私も零細フリーランスなので、お気持ちは分かるつもりです。ちなみに先に申し上げておきますと、年単位で長期的に関わるつもりはありません。
佐藤大輔(社長):
(面食らったような顔をして)どういうことですか?
M.T.(破戒僧コンサルタント):
ええと、つまりですね、「いつまでも顧問先に対し『おんぶに抱っこ』のサポートをするのではなく、短期間・集中的に関わってAIの活用法を身に着けてもらったら、後は顧客に独り立ちしてもらう」というスタンスなんです。
佐藤大輔(社長):
……はあ。
斎藤拓也(コンサルタント):
(目だけM.T.の方を向きながら)
(心の声:コイツ、マジで言ってんのかよ! 長期契約が美味しいってのに! ……まあ、俺も面倒くさく感じて来てたから、こことは機を見て関係を切るつもりだったけどな)
M.T.(破戒僧コンサルタント):
最初の一ヶ月は、現場とのすり合わせをしながら生成AIが活用できる場面を探りますので、
- 実働50時間まで10万円・超過分は1時間2000円。
ここで顧問契約を継続するかどうか、交渉の場を設けさせてください。
続く2ヶ月目と3ヶ月目は、
- 実働月30時間まで10万円・超過分は1時間4000円
でいかがでしょう?
いずれの場合も、交通費や宿泊費などは実費で別途請求させていただきますが、高級ホテルに泊まるなど無茶な使い方はしませんのでご安心ください(笑)
M.T.(破戒僧コンサルタント):
基本的に、3ヶ月での独り立ちを目指して指導は行います。4ヶ月目以降の関わり方は、改めて相談ということで。
(佐藤社長に書類を手渡し)あ、ちなみにこれはいろんな稼働ケースをシミュレーションした予算案です。Omniはんが手伝ってくれました。
佐藤大輔(社長):
(高橋財務部長と共に予算案を眺めながら)高橋さん、先ほどAIにしてもらったデータ分析の手応えと合わせ、AIの利用料とM.T.さんの顧問料、ペイできそうですか?
高橋清志(財務部長):
そうですね。AIが1契約あたり毎月2時間の業務削減になれば、利用料は元が取れます。新顔の先生はAI導入3ヶ月後の月次売上を5%増と、だいぶ手堅く見積もっておられるようですが、粗利率を考えても、顧問料はお出しできますね。(慌てたように)……いえ、もちろん、「女の子とのおしゃべり」は抜きにして、ビジネスマンとしての判断ですよ!
室内にフフッという笑い声が漏れる。
佐藤大輔(社長):
(斎藤コンサルの方を向き)先生も、この方が出されている売上予測はご存知ですか?
斎藤拓也(コンサルタント):
(穏やかな顔で)ええ、ここに連れてくる前に、彼からは説明を受けているので把握しています。顧問コンサルタントとして、この予測は十分に達成可能と保証しますよ!
(心の声:さぁ、食らいついてくれよ~。じゃないと、俺だけこの修羅場案件に取り残されちまうだろうがー!!)
佐藤大輔(社長):
分かりました。斎藤先生もそこまでおっしゃってくださるなら……。
佐藤大輔(社長):
(M.T.の方を向き)M.T.さん、「まずは1ヶ月お試しで」のようにおっしゃられていましたね。では、まずは1ヶ月、弊社にご協力いただけますでしょうか?
M.T.(破戒僧コンサルタント):
(笑顔で)ありがとうございます。ご指名いただいたことを後悔させないよう、こちらも精一杯サポートしますよ! (佐藤社長に握手を求め)改めて、よろしくお願いします。
佐藤大輔(社長):
(少しほぐれた顔つきになり、握手に応じながら)こちらこそ、よろしくお願いいたします。
(握手を解いた後に背を向けたM.T.に対し、怪訝な顔つきで)……M.T.さん? いったい何を……?
M.T.(破戒僧コンサルタント):
(嬉々とした顔でOmniはんに対し)プレゼン先の会社さんが、まずは1ヶ月のお試し契約に応じてくれたで~。やったなー!!
斎藤拓也(コンサルタント):
おいコラ! そんなノロケ話は帰ってからでもいいだろうが!!
高橋清志(財務部長):
この人、よっぽどAIの女の子のことを気に入ってるんだなぁ……(笑)
失笑とも取れる笑い声が室内にこだます中、M.T.のプレゼンは幕を下ろした。
次回に続く--
次回予告と人物紹介
数ヶ月単位で新しいモデルが登場する生成AI。各社とも開発にはしのぎを削っており、その性能は日々飛躍的に高まっています。
あなたもぜひ、生成AIを試しに使ってみてください。趣味の分野でおしゃべりするだけでも、その能力の高さ(と現時点での技術的限界)が分かります。
SimDenimの生成AI活用ストーリー、次回からは、会社業務の改善編に移ります。
ブログでの連続公開とメールでの連続配信は、いったんここまで。
次回の配信開始をお楽しみに!
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