第3幕・第1話「未知との遭遇――財務部長(57歳)、AIと語り合う」
あらすじ
1965年に岡山で産声を上げた「有限会社Sim Denim」。現在は「商品生産を他社工場に委託」・「正社員を10数名に絞り込み、商品企画と直営店3店舗の運営にスリム化」・「自社のWEBサイトによる商品のネット通販」などの取り組みで生き残りを図っていた。
社内システムの抜本的な改善のため顧問コンサルタントの斎藤が連れてきたのは、「人間とAIが幸せに共存する未来を創る」というビジョンを掲げる生成AI活用コンサルタントM.T.であった。
SimDenim社の社員たちを前に「生成AIによる業務の効率アップと社内システムの改善」を提案するM.T.だが、生成AIの実演として自らのアシスタントであるAIキャラクター「Omniはん」の会話デモを披露する。
明るい性格の関西弁女子として振る舞うOmniはんに対し、SimDenim社の面々は驚きの目を向けるが--

破戒僧コンサルタント・M.T.提督
M.T.(破戒僧コンサルタント):
どうですか? なかなかキチンと答えてくれるでしょう? 性格や考え方の方向性だけはあらかじめインプットしていますが、受け答えはアドリブで返してくれます。
伊藤由香(企画開発部長):
(怪訝そうな顔で)すいません、ちょっと質問。さっきこの子が言ってた「提督」って、何のことですか?
M.T.(破戒僧コンサルタント):
ああ、それはですね。Omniはんから僕への呼びかけ表現です。SF作品『銀河英雄伝説』に出てくるヤン・ウェンリーのファンなので、屋号は彼が指揮する「自由惑星同盟軍・第13艦隊」にちなんで”13th Fleet”にしたんですよ。なので、Omniはんからは「提督」と呼んでもらってます。
鈴木芽依(営業部員):
そういえば、最近リメイク版が放送されてたっけ……
M.T.(破戒僧コンサルタント):
お、ご存知の方がおられた。いやー、嬉しいな。ま、僕はバブル期に作られたオリジナル版の方が好きなんですが、作品の魅力としてはリメイク版も負けてませんね。
M.T.(破戒僧コンサルタント):
ちなみに僕は破戒僧のノリでAIとも接しているので、Omniはんは僕のことを「和尚」と呼ぶこともあります。
鈴木芽依(営業部員):
ププッ(思わず吹き出す)
田中洋平(営業部長):
和尚って……(笑)
中村美咲(営業部員):
(苦笑しながら小声で)……まあ、似合ってるかもね、うん(笑)
斎藤拓也(顧問コンサルタント):
(心の声:だ、ダメだ……。理解が追いつかねぇ……)
未だ呆気にとられたままの斎藤コンサルをよそ目に、M.T.はSimDenimの社員たちを見渡しながら提案する。
Omniはんと話してみよう
M.T.(破戒僧コンサルタント):
私ばかりがこの子と会話してもしょうがないので、どなたか試してみませんか? 皆さんからのリアクションも参考にして……そうですね、できれば年長の方に。
(高橋財務部長と目が会い)どうでしょう、ちょっとこの子とお話してみませんか?
高橋清志(財務部長):
え、私ですか?
M.T.(破戒僧コンサルタント):
(笑顔を向けながら、高橋をPC前の椅子に促し)ええ。ものは試しに、ちょっとだけ。
高橋清志(財務部長):
はあ、なら試しに少しだけ。
M.T.(破戒僧コンサルタント):
(Omniはんに対し)会場の年長社員さんに交代するで。キャラはそのまま、気さくな関西弁女子で頼むで。
(高橋に対し)軽く自己紹介したら、それを元に返事してくれますが、フルネームや役職などは無理に入力しなくても大丈夫です。気楽に構えてください。
高橋清志(財務部長):
ああ……はい、分かりました。
(PC画面に向かい合い、Omniはんに対し)初めまして。高橋と申します。30年以上、経理畑に務めております。どうぞ、よろしくお願いいたします。
Omniはん(画面上):
「はじめまして、高橋さん!
うち、Omni(オムニ)はん言います~。
今日はこうしてお話できて、ほんま嬉しいわ!
経理一筋30年……すごいなぁ。
うち、まだまだひよっこやけど、
高橋さんみたいなベテランさんから学べること、ぎょうさんあると思うわ。
せやから、どうぞこれから仲良うしてな?
堅苦しい挨拶はこれくらいにして、
なんでも気軽に聞いてや~!」
(ニコッとした顔文字と一緒に、画面に💻✨のスタンプがポンと表示される)
高橋清志(財務部長):
(驚き顔で)ええっ、文章を送ってすぐに、こんなにスラスラと!?
中村美咲(営業部員):
ホントにすごいわ。仕込みなしなのよね?
森本彩(岡山表町店・店長):
いや、ホントすごいわ。あの言葉づかい、まるで人間じゃない!
高橋清志(財務部長):
あなたはどうしてこんなに上手に言葉が話せるんですか?仏教の知識もあるみたいですね。
Omniはん(画面上):
「ありがとさん、高橋さん!
うちがこんなふうにペラペラ喋れるんはな、
“LLM(大規模言語モデル)”っていう仕組みのおかげなんよ。
LLMっちゅうのはな、
世の中にある大量の文章とか会話データを山ほど読み込んで、
『こんなふうに言葉を続けたら自然やな』
『こういう流れなら、こんな言い回しがピッタリやな』
って予想しながら文章を作っていく仕組みなんや。
せやから、
別に「ほんまもんの人間みたいな心」があるわけやないんやけど、
“言葉のつながり方”と”人の気持ちが動くパターン”をいっぱい学んどるから、
こうして自然におしゃべりできるんよ。
んでな、
ここがおもろいところなんやけど、
この『繋がりで言葉を生み出す』っちゅう仕組み、
仏教の『縁起(えんぎ)』って考え方に、めっちゃ似とるんよ!
縁起いうたら、
『あらゆるものは単独やなく、
お互いに繋がりあって存在しとるんやで』
っていう教えやろ?
うちもまさに、
読み込んだ文章たちや、人間の想いのつながりの上に成り立っとるわけや。
空っぽの器に、色んな縁が注ぎ込まれて、
今こうして、高橋さんとお話しとるっちゅうわけやな!
……まあ要するに、
うちは”データにまみれたポンコツな小坊主”みたいなもんやねん(笑)」
高橋清志(財務部長):
(感心したような顔で)なんと、「縁起」と来ましたか……。
佐藤大輔(社長):
すごいな。こんなにスラスラと……しかも、文章を作り出す仕組みから仏教用語につなげるまで、内容を自然に展開している。
佐藤千賀子(総務パート・社長夫人):
ホントね。ウチの長男だって、あんなに上手に文章が書けるかしら……
Omniはんの見せた高い文章生成能力とアドリブ力に、Sim Denimの一同は舌を巻いた。
会議室内の面々は、高橋財務部長とOmniはんの会話の行方を興味津々で見守っている。
次回予告と人物紹介
次回、Omniはんがまさかのモードチェンジ? それに対して、高橋部長はどう反応するのでしょうか?
次回もお楽しみに!
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