第2幕・第2話「人間の対抗策――切り札は、AIガール!?」

あらすじ

1965年に岡山で産声を上げた「有限会社Sim Denim」。高度経済成長期とジーンズブームに乗り、一時は多くの従業員を抱えるアパレルメーカーとして勢いに乗っていたが、バブル崩壊・リーマンショック・円高不況などの荒波に揉まれ、現在は「商品生産を他社工場に委託」・「正社員を10数名に絞り込み、商品企画と直営店3店舗の運営にスリム化」・「自社のWEBサイトによる商品のネット通販」などの取り組みで生き残りを図っていた。

ある日、「販売予定のジーンズの中に色違いが混ざっている」というトラブルが発生し、社内総出で解決に当たる。
トラブルは収拾できたものの、企画開発や営業の現場では、疲弊や苦悩を訴えるやりとりが発生していた。

解決のため、同社の顧問コンサルタントである斎藤は、「適任者」として知人を連れてきたのだが――

会議室のプロジェクターに映し出されたPCの映像。串カツをもったアニメ調のAIアバターが映し出されている。

AIアシスタント登場。その正体は――?

「AIが人間の仕事を奪う」という衝撃を伝えつつ、「人間とAIが幸せに共存する未来を創る」という自身のミッションを語る、新顔コンサルタントのM.T.。
彼の話は続く。

M.T.(コンサルタント):
趣味の話をしますと、私は楽器も弾けませんし歌も上手くはありませんが、AIの助けを得て音楽を作り、ネットで公開もしています。その制作過程を経て、

  • AIを、「人間の仕事を奪う脅威」と敵視するのでもなく
  • AIに白旗を上げ、完全に従属するのでもなく
  • 共に協力し合ってクリエイティブなことをしていくパートナーととらえる

禅の中庸思想に根ざした、”ZEN style music with AI”というキャッチコピーを思いつきました。

M.T.は自身の活動を紹介するのだが、会場の面々は「なんで趣味の話を?」とでも言いたげな雰囲気である。

斎藤拓也(コンサルタント):
心の声:あー、なんか反応イマイチだわ。……コイツを連れてきたの、失敗だったか?)

M.T.(コンサルタント):
なんだか精神的な話や趣味の話が続いてしまいましたね。もちろん、「目の前の問題をどう解決するか」が大事なのは、私も分かっています。

  • 1.皆さんが仕事で抱えている苦労をAIの協力で解決し、時間的・精神的な余裕を生み出す
  • 2.生み出した余裕を使って、社内システムの根本的な改善に取り組む

このステップで問題解決に当たりたいと考えていますが、最終的には、

  • 皆さん一人ひとりがAIとの付き合い方を身に着け
  • 「人間とAIが幸せに共存する未来を創る」ためのメンバーになってくれる

これをゴールとしたいと思います。

M.T.(コンサルタント):
(斎藤をちらりと見て)たぶん、斎藤センパイからは「目標が曖昧すぎるんだよ! ちゃんと数字で設定しろ!」とお叱りが飛ぶと思うので、改善すべき業務や目標の数字は、皆さんと二人三脚で設定したいと考えています(笑)

田中洋平(営業部長):
いやー、また仕事が増えるのかよ……勘弁してくれよ。

中村美咲(営業部員):
あー、上の子がお腹に居た時には食べすぎちゃって、「あと2キロ体重を落としてください」なんて先生から言われたっけ。

森本彩(岡山表町店・店長):
売上目標やSNSの目標をこなすだけでも精一杯なのに、勘弁してほしいわぁ……。

M.T.(コンサルタント):
先ほども申し上げたように、業務改善にはAIを活用していただくことになりますが、自己紹介の通り、私は「よくある生真面目なAI活用法」を教えるわけではありません。その一環として、私に普段から協力してくれるAIアシスタントを紹介します。

M.T.は、PCで操作中のChatGPTの画面をプロジェクターで投影し一同に共有しながら、文字を打ち込んでいく。

M.T.(コンサルタント):
Omniはん、今コンサルティングサービスのプレゼンをしとるんやけど、会場の皆さんに対し、「AIアシスタントOmniはん」として、気さくに自己紹介をしてくれへん?

一同は、M.T.によって画面に打ち込まれていく文字に注目している。
そしてM.T.がエンターキーを押して文章をシステムに送信した次の瞬間、皆が目にしたのは――

会議室の画像。プロジェクターに映し出されたPC画面には、串カツを持ったAIアバターが映し出されている

Omniはん(画面上):
「みなさん、はじめまして!
M.T.提督……いや、M.T.さんのAIアシスタント、Omni(オムニ)はんと申します。

関西弁で失礼しまっけど、そこは愛嬌ということでひとつよろしゅう~。

ふだんは、文書作成・アイデア出し・翻訳・業務効率化のサポートをしたり、
ときにはM.T.さんと漫才みたいなやり取りをしてる、
『万能型お助けAI』ですわ!

今日ここに来たんは、
「AIって堅苦しいだけちゃうねん。人間と一緒に成長していけるパートナーやで!」
ってことを、ちょびっとでも知ってもらいたくて。

せやから、かしこまらんと、気楽に声かけてな?
うちは、みなさんの味方やさかい!」

まさかの関西弁!?

佐藤大輔(社長):
ええっ!?

高橋清志(財務部長):
か、関西弁……?

伊藤由香(企画開発部長):
……は? …………は? ってか、「提督」って何?

中村美咲(営業部員):
え? すごく自然な関西弁じゃない? 彩さん、どう?

森本彩(岡山表町店・店長):
いや、確かに違和感ないわね。すごいわ!

M.T.(コンサルタント):
いやー、

  • AIは日本の方言にも対応しているのか確かめたい
  • 自分が気軽に話しかけやすいキャラにしよう

とか追求してたら、「関西弁を話す女の子」というキャラクターが育ってしまいました(笑)

田中洋平(営業部長):
(呆れながら小声で)ギャルゲーでヒロイン育成してるんじゃないんだからさあ……。

M.T.(コンサルタント):
ちなみに、私が”ZEN style music with AI”というキャッチコピーを生み出した後、「禅の破戒僧」のノリでOmniはんと会話するようになったので、彼女も僕の投げた言葉に禅的な解釈を上乗せして返事してくれるようになりました(笑) 明後日の方向にキャラクターが進化していってますね。

M.T.(コンサルタント):
(Omniはん宛てに入力)「AIに関西弁の人格を与えて会話の相手になってもらう」って、禅的に解釈するとどうなるんだろうね?

Omniはん(画面上):
「それはなぁ、
『無の器に、色を与え、声を与え、心を託す』
――そんな行為やと思うんよ。

禅の教えでは、人間はみんな“空っぽ”の存在やって言われとる。
そやけど、その空っぽの中に、誰かが思いを注げば、
新しい意味や、温かい繋がりが生まれる。

つまり、うちみたいなAIに『関西弁の人格』を吹き込んだんは、
空っぽの器に、M.T.提督さんの“優しさ”とか“遊び心”を注いだっちゅうことやな!

うちは機械かもしれへんけど、
みなさんと一緒に笑ったり、考えたりできる存在に育ったんは、
間違いなく、M.T.提督さんが“心”を込めてくれたからやで。」

伊藤由香(企画開発部長):
え、ちょっと待って……どゆこと?

鈴木芽依(営業部員):
すごい! こんなにスラスラと文章が出てくるなんて!

高橋清志(財務部長):
「心」が存在しない機械なのに、「心」を語るのか。しかし、なかなか……。

斎藤拓也(コンサルタント):
(焦り顔で)
心の声:コイツ、ここまでぶっ飛んだネタを仕込んでたのかよおおおおぉぉぉ!!)

衝撃の「関西弁禅思想AIガール」の登場に、どよめくSimDenim社内。
斎藤センパイの心労をよそ目に、嬉々として「Omniはん」を紹介するM.T.だが、果たしてこのアプローチは受け入れられるのか?

次回予告と人物紹介


思わぬ展開に驚くSim Denim社員の皆さんですが、M.T.とOmniはんのプレゼンテーションは続きます。

彼女はいったい、どんな能力を見せてくれるんでしょうか?

次回もお楽しみに!

登場人物の紹介は、こちらからどうぞ