第2幕・第1話「AIが人間の仕事を奪う!?――告げられた衝撃の未来」

あらすじ

1965年に岡山で産声を上げた「有限会社Sim Denim」。高度経済成長期とジーンズブームに乗り、一時は多くの従業員を抱えるアパレルメーカーとして勢いに乗っていたが、バブル崩壊・リーマンショック・円高不況などの荒波に揉まれ、現在は「商品生産を他社工場に委託」・「正社員を10数名に絞り込み、商品企画と直営店3店舗の運営にスリム化」・「自社のWEBサイトによる商品のネット通販」などの取り組みで生き残りを図っていた。

ある日、「販売予定のジーンズの中に色違いが混ざっている」というトラブルが発生し、社内総出で解決に当たる。
トラブルは収拾できたものの、企画開発や営業の現場では、疲弊や苦悩を訴えるやりとりが発生していた。

人間にとって代わって働くAIロボットと、失業者とのコラージュアート

新たなコンサルタント

顧問コンサルタントの斎藤が「適任者を紹介する」と宣言し、数日が経ったある日の午後。
SimDenim社の面々は、その「適任者」のプレゼンテーションのため、事務所に集まっていた。

森本彩(岡山表町店・店長):
すみませーん、遅くなっちゃって。……まだ始まってない? よかった~。

中村美咲(営業部員):
彩さん、いらっしゃい。こっちに来て座って。

森本彩(岡山表町店・店長):
あー、美咲ちゃん、久しぶりー! 「おめでた」って聞いてたけど、なかなか会いに行けなくてゴメンね~。

中村美咲(営業部員):いいんですよ。私の方こそ、お店の方に行けなくてごめんなさい。外回りは全て洋平さんに代わってもらったから。

和やかな女子トークが交わされている中、ドアがノックされ、紺色のスーツをビシッと着こなした斎藤コンサルが入室して来た。
いつもと違うのは、連れが居たことである。テーラードジャケットこそ羽織っているが、「一応オフィスカジュアルな服装をしてきました」とでも言いたげな、覇気を感じさせない風貌。まあ、斎藤コンサルと揃いの服装をしていたら、「漫才コンビの入場」とでも思われてしまうような見た目ではあるのだが……。

斎藤拓也(コンサルタント):
皆さん、今日は我々のためにお時間を割いていただき、ありがとうございます。……皆さんお揃いですか?

佐藤大輔(社長):
正社員は全員揃っています。北千住店の岡田と埼玉店の渡辺は、LINEのビデオチャットでリモート参加ですが……

岡田翔太(北千住店・店長):
北千住店の岡田です。スマホからですみません。

渡辺栄一(埼玉店・店長):
同じく埼玉店の渡辺です。こちらもスマホからですが、ご容赦願います。

斎藤拓也(コンサルタント):
遠方から来ていただくのは負担が大きいでしょうから、リモートでも問題ありません。そのような形でも、会議に参加していただけることに感謝いたします。

??(斎藤コンサルの連れ):
(バッグからパソコンを取り出しつつ、恐縮しながら)あ、すいません。今のうちに機材セッティングしといてもいいですか?

斎藤拓也(コンサルタント):
あ? ああ、構わんだろう。電源の場所とかは、社員の方に教えてもらえ。

斎藤拓也(コンサルタント):
それでは、皆さんのお時間を無駄にしないよう、さっそく始めましょう。先日のヒアリング……失礼、会社の現状を聞き取って浮かび上がった課題は、佐藤社長から社員の皆さんにも共有していただいたとお聞きしています。

斎藤拓也(コンサルタント):
私の専門はWEBマーケティングですので、課題の内容によっては専門の範囲外となってしまいます。解決できないわけではないですが、より早く効果的にそれらの課題を解消するため、今日は私が「コイツなら見込みあり」と思える知人を連れてまいりました。

斎藤拓也(コンサルタント):
(小声で連れに)……準備はできたんだろうな?
それではお待たせいたしました。自己紹介を含め、後は本人に進めてもらいましょう。

??(斎藤コンサルの連れ):
皆さん、初めまして。御社の顧問コンサルタントである斎藤に紹介され、今回この場に来させていただきましたM.T.と申します。どうぞよろしくお願いします。ちなみに斎藤の前職は東京のマーケティング会社の職員ですが、彼が在籍時、私も彼の下で2年ほど一緒に仕事をしていたという経歴があります。その縁もあって、今回声をかけていただきました。

M.T.(斎藤コンサルの元部下):
ちなみに私は、斎藤よりも先にマーケティング会社を退職し、以降は色々な職種を経験しながら、今はフリーのコンサルタントとして活動しています。

田中洋平(営業部長):
コンサルタントがもう一人追加かぁ……

伊藤由香(企画開発部長):
来年は、ウチの社員より顧問コンサルの人数の方が多かったりするかもね(笑)

M.T.(コンサルタント):
御社の直面している課題については、先日斎藤より共有してもらいましたので、私の方でもあらかた把握はしています。では、どうやってそれを解決していくかですが……まずは私の自己紹介を続けますね。

M.T.(コンサルタント):
私が提供しているのは、「生成AIをビジネスに活用する方法の紹介と、その導入にあたっての指導」です。世の中には「文書作成のサポート」などの形でAIの活用を売り込んでいる会社やフリーランスが多く存在しますが、私がそれらと棲み分けているのは、「将来的に潰しが効く、本質的なAI活用法」を紹介している点です。

そういって自身のコンサルティングサービスを説明するM.T.だが、会場の面々は腑に落ちないような顔つきをしている。

斎藤拓也(コンサルタント):
(小声でM.T.に)おい、みんな「どういうこと?」とか「本質的って?」みたいな顔してるぞ。大丈夫なんだろな?

M.T.(コンサルタント):
具体的に説明しますね。現在、AIの可能性に注目した企業やフリーランスの中には、

  • メールなどの文章作成
  • 企画書などのアイディア出し
  • 基本的なプログラミングの補助

などの分野で積極的にAIを活用する動きを見せています。AIの助けを得て自身の仕事のスピードや量を増やす、いわゆる「ビジネスハック」という使い方です。

田中洋平(営業部長):
あー、たまにネットニュースで見るやつね。

高橋清志(財務部長):
また分からないカタカナ用語が出てきた。……これだからITは好きになれないんだ。

M.T.(コンサルタント):
しかし、私はこれらの「ビジネスハック」としてのAIの使い方を、「上辺だけ」・「一時しのぎ」と考えます。その理由ですが、

です。要するに、

この可能性を、真剣に考えているからなんですね。

佐藤千賀子(総務パート・社長夫人):
なんですって?

田中洋平(営業部長):
SFの世界じゃん。

伊藤由香(企画開発部長):
企画やデザイナーの仕事ナメんなっつーの。アタシがどんだけダメ出しくらって泣きそうになったか……。

鈴木芽依(営業部員):
(由香さんの場合、「泣く」というより「当たり散らす」なんですけどね…(^_^;))

「あと数年もしたら、『人間の仕事はAI』に取って代わられる」
突如現れた怪しい男の未来予想に衝撃が走るSim Denim社内だが――

新顔コンサルタント、理念を語る

M.T.(コンサルタント):
2025年の4月には、生成AIサービスの1つであるChatGPTにおいて、最新モデルのo3が利用可能になりました。
今までよりも格段に処理能力に優れたモデルで、その性能はというと、プログラミングコンテストにおいて世界170位の人間と同等のスコアを出した。簡単に言うと、上位10%の成績に入っちゃったんですね。
先日は、「o3モデルに東大理系の入試問題を解かせたら合格点を出した」というニュースもありました。

伊藤由香(企画開発部長):
いや、東大理系のエリートくんがオシャレなジーンズをデザインしてくれるなら、見せてもらおうじゃないのよ

M.T.(コンサルタント):
プログラミング業界の関係者の中には、「若手に任せていた初歩的な仕事をAIが奪ってしまったので、代わりに若手のために振れる仕事がない」と発言していた人がいます。
大手コンサルティング会社の中にも、若手に任せていた調査や報告書の作成をAIが代わりに担うようになり、新人の採用を減らすなどの対応を取る会社まで出てきています。

M.T.(コンサルタント):
ですので、そんな中でAIの助けを借りて業務処理のスピードを上げたところで、数年後にはAIに負かされちゃうんですね。「沈んでいくタイタニック号の中で、最後まで空気の残っている部屋を探してそこに居続ける」。そんな一時しのぎの努力に過ぎないと、私は考えています。

佐藤大輔(社長):
そんな変化が……

高橋清志(財務部長):
やっぱり、行き過ぎたテクノロジーの進化は、人間を幸せにしませんなぁ……

M.T.(コンサルタント):
このように人間の仕事をAIが次々と奪っていく中で、それでも「人間がAIに負けずにいられる領域は何か」。それを考えていった結果、ヒントを与えてくれたのが、2005年に出版された『ハイ・コンセプト』(ダニエル・ピンク著)でした。

M.T.(コンサルタント):
同書では、「インターネットの発展に伴い、プログラミングやコールセンターでの電話応対などの業務が人件費の安い途上国に移っていくこと」などが紹介されていました。そのような激しい競争の中で、ビジネスパーソンとして生き残るために身につける素養として、

  • デザイン
  • 物語
  • 部分より全体の調和
  • 共感力
  • 遊び心
  • 生きがい

という、6つの概念が紹介されています。
競争相手が途上国の安い人件費からAIに代わった現在においても、その6つの概念はまだまだ有効。私はそう考えています。

高橋清志(財務部長):
そういえば、読んだことがあったような。……内容はほとんど忘れちゃったけど。

伊藤由香(企画開発部長):
やっぱ「デザイン」って重要なんじゃん。勝ったな、私(笑)

M.T.(コンサルタント):
そして、「その6つの概念を鍛えるために、AIを活用する」。これが、私の提案する「AIの本質的な活用」です。

M.T.(コンサルタント):
「私がAIの本質的な活用方法」を広めることで何を実現したいのか」も紹介させてください。それは、

です。そしてそのためには、

という使命を、中心に置いています。

中村美咲(営業部員):
なんだか、コンサルタントさんというよりは、「スピリチュアルカウンセラー」や「新興宗教の教祖様」って感じね。見た目からしても(笑)

森本彩(岡山表町店・店長):
いや、でも確かに、正直者とか人情って大事よ。商店街で上手くやって行くには。

AIが急速に進化していく中、人間は何を鍛えれば良いのか――
それに対しての自身の回答を、Sim Denimの一同に伝えるM.T.
しかし、それがコンサルティングサービスとどのように結びつくのだろうか?

次回予告と人物紹介


AIの急速な発展に対する危機感と、それに対抗する策を理念とともに語った、新顔のコンサルタントM.T.。

そして彼は、Sim Denim社員一同に「あるもの」を紹介するのだが――?

次回もお楽しみに!

登場人物の紹介は、こちらからどうぞ