第1幕・第2話「上から下まで問題だらけ――顧問コンサルタントもお手上げ!?」
あらすじ
あらすじ
1965年に岡山で産声を上げた「有限会社Sim Denim」。高度経済成長期とジーンズブームに乗り、一時は多くの従業員を抱えるアパレルメーカーとして勢いに乗っていたが、バブル崩壊・リーマンショック・円高不況などの荒波に揉まれ、現在は「商品生産を他社工場に委託」・「正社員を10数名に絞り込み、商品企画と直営店3店舗の運営にスリム化」・「自社のWEBサイトによる商品のネット通販」などの取り組みで生き残りを図っていた。
ある日、「販売予定のジーンズの中に色違いが混ざっている」というトラブルが発生し、社内総出で解決に当たる。
トラブルは収拾できたものの、企画開発や営業の現場では、疲弊や苦悩を訴えるやりとりが発生していた。

IT化の光と影
同時間帯、Sim Denim社の幹部エリアにて
高橋清志(財務部長):
うーん、先日上がってきた直営店の月次レポートだけど、目に見えて売り上げが増えてるようには思えないね。
佐藤大輔(社長):
苦戦中ということですか……
高橋清志(財務部長):
ネットショップ事業開始に合わせ、エス…Sなんとかでもお客様と交流するようにしたんでしょう?
佐藤大輔(社長):
SNSです。「スマホからでも手軽にメッセージのやり取りができ、店とお客様との接点になる」というのが、斎藤先生の見解ですが……
高橋清志(財務部長):
スマホねぇ……若い人たちはいとも簡単に使いこなしているように見えるけど、私はどうも苦手で。何ていうか…「軽薄」と申しますか、LINEなんかでも、「この度は、まことにありがとうございました」なんて言葉を使わず、イラスト1つをポンと寄越すだけで済ませてしまうでしょ?
高橋清志(財務部長):
私の若い頃なんか、手書きで御礼状を送ってましたよ。目上の方から達筆で書かれたハガキを受け取った日には、背筋が伸びる思いがしました。
佐藤千賀子(総務パート・社長夫人):
でも高橋部長、この間はLINEで送られてきたお孫さんの写真、嬉しそうに見られていたじゃありませんか。
高橋清志(財務部長):
いやあ、私だって、技術の進化を頭から否定しているわけではないですよ。でも、何といいますか、最近のテクノロジーの進化は、人間を置き去りにしているように思えてならんのです。
佐藤千賀子(総務パート・社長夫人):
あら、でも高橋さん、Windows11への乗り換えだって、見事に対応されたじゃないですか。
佐藤大輔(社長):
高橋さんくらいの年代の方ですと、パソコンへの苦手意識を持つ方も多いでしょう。父の代からずっと、IT化に対応されて来られたことには、改めて感謝しています。
佐藤千賀子(総務パート・社長夫人):
そうですよ。先代の総務さんが退職された後、ここに引っ張り込まれて右も左も分からない私にワードやエクセルの使い方を教えてくださったのは、他ならぬ高橋さんですもの。
高橋清志(財務部長):
いやあ、お二方からそのような言葉をいただけるとは、光栄ですな。
高橋清志(財務部長):
しかし、Windowsにせよ、次から次へ新しくする必要はあるんでしょうかね。私は、Windows7で十分満足してましたよ。機械が壊れたわけじゃないのに、「ソフトのサポートが切れるから」って理由で強引に買い替えさせるだなんて、とんだ殿様商売ですよ。ま、パソコンの減価償却なんて、4年で終わってしまいますがね。
高橋清志(財務部長):
複雑な気持ちですが、業績低迷のSimDenimで首切りの嵐が吹き荒れる中、私の立場が守られたのは、パソコンスキルのおかげとも思っとります。教室に通い、自分よりも若い先生に教わったのも、今となってはいい思い出ですな。
それと、「父の代から会社を支えてくれた、屋台骨であるあなたを失うわけには行かない」と言ってくれた大輔社長にも、もちろん感謝してますよ。
佐藤大輔(社長):
恐縮です。高橋さんには、今でも教わることがたくさんありますので。
高橋清志(財務部長):
そういえば、斎藤先生は明後日お見えになられるのかな? 売上報告書など、必要な資料をお見せできるよう、準備しておきませんとな。
佐藤千賀子(総務パート・社長夫人):
私も手伝いますよ。
佐藤大輔(社長):
二人とも、よろしく頼みます。
顧問コンサルタントもお手上げ?
後日、SimDenim社の会議室にて。
鍛え上げた褐色の肉体をブランドスーツに包んだ男が、佐藤社長ほか幹部クラスとの会議に臨んでいる。

斎藤拓也(顧問コンサルタント):
……ご報告ありがとうございます。いったん御社の直面しているイシューを整理させてください。つまりは、こういうことですね。
- Eコマース事業のセールスが予想を下回っている
- 顧客エンゲージメントの向上を狙ったSNSでのアプローチも苦戦中
- メンバーの産休に伴うジョブトレーニングのプログレッションもリスケが必要
- 新プロダクトのためのR&Dも頭打ちな感じ
- 商品リードタイムやクオリティ改善・ロジスティックエラー防止などのため、各ステークホルダー間のコミュニケーションチャンネルにも改善が必要
- なにより、それらを改善するためのヒューマンリソースが不足しており、タイムマネジメントも困難
高橋清志(財務部長):
あの、恐れ入りますが、なにぶん昭和の人間で横文字やカタカナ用語に疎いものでして……もう少し分かりやすくおっしゃっていただきますと助かるのですが……
斎藤拓也(顧問コンサルタント):
ああ、失礼しました。クライアント…じゃなかった、顧客に分かるように話すのがコンサルタントの基本ですからね。初心を思い起こさせていただき、ありがとうございます。
斎藤拓也(顧問コンサルタント):
では改めまして。お話をうかがった上でまとめ上げた、御社の直面している課題です。
Sim Denim社の課題
- ネットショッピング事業の売り上げが予想を下回っている
- お客様とのつながり作りのために始めたSNSだが、苦戦中
- 産休に入る社員の引き継ぎも遅れており、スケジュールに見直しが必要
- 新商品開発のためのアイディア出しも頭打ちに感じている
- 商品の品質改善・納入や出荷の期間短縮や流通の過程でのミス撲滅を目指したいが、各関係者で連絡を取り合う方法に改善が必要
- これらの課題を解決しようにも、人的資源も時間も不足している
これでお間違いないでしょうか。
佐藤大輔(社長):
ええ、その通りです。
高橋清志(財務部長):
見事にまとめてくださいましたね。さすがです。(……最初から横文字を使わなきゃいいのに)
佐藤大輔(社長):
それで先生、これらの課題を、どのように解決すればよろしいのでしょうか?
斎藤拓也(顧問コンサルタント):
(目を泳がせながら)うーむ……
(心の声:うわ~、社内システムの根本から見直さなきゃならないとか、俺一人の力じゃ無理な案件じゃん! 報酬に見合わない大掛かりな作業になりそうだし、テキトーにあしらって関係を切って行く方向で…って、ネットショッピング事業を始めたばかりだから、「ネットマーケティングの専門家」と名乗っている以上、しばらくは付き合い続けるしかないか。じゃ、どーすんのよ、俺!)
高橋清志(財務部長):
……斎藤先生?
斎藤拓也(顧問コンサルタント):
(目を逸らせたまま)
(心の声:ん? そういえば、こないだアイツが始めた事業……)
斎藤拓也(顧問コンサルタント):
(佐藤たちに向き直り)そうですね。ネットマーケティングやIT活用といった分野だけでは解決できない問題もありますので、かなり腰を据えて取り組まなければならないでしょう。
佐藤大輔(社長):
痛みを伴う改革になりそうですか……
斎藤拓也(顧問コンサルタント):
私も東京で鍛え上げられた経験はありますので、可能な限りのお力添えはします。
ですが、一部の分野の課題解決におきましては「私より適任」と思われる人間がおりますので、今度ご紹介します。
高橋清志(財務部長):
さらに顧問料が上乗せですか……
斎藤拓也(顧問コンサルタント):
ご心配なく。勝手知ったる間柄ですので、私の交渉力で買い叩いてやりますよ。ひとまずは、ネットショッピング事業とSNSについて、詳しく見ていきましょう――
課題が山積みのSimDenim社だが、斎藤コンサルは解決策を見つけた模様。
一体どんな方法で、彼は悩める中小企業を救おうというのか。
次回予告と人物紹介
次回、斎藤コンサルタントが連れてきた人物が、Sim Denimに波乱を巻き起こす――?
連れて来られた人物とは、いったい何者なのか……。
次回もお楽しみに!
登場人物の紹介は、こちらからどうぞ