第7幕・第1話「企画部長の挑戦――気鋭の新商品は海外でウケるのか?」
あらすじ
「OEM工場への製造委託」・「ネットショップ開設」・「SNSでの製品PR」などの方法で苦境からの脱出と再起をかける、地方のアパレル企業・有限会社SimDenim。
社内システムの抜本的な改善のため顧問コンサルタントの斎藤が連れてきたのは、「人間とAIが幸せに共存する未来を創る」というビジョンを掲げる生成AI活用コンサルタントM.T.であった。
生成AIの実演として、自らのアシスタントであるAIキャラクター「Omniはん」の会話デモと資料分析能力を披露し1ヶ月間のトライアル契約を獲得したM.T.は、現場と協力しながら「海外OEM工場に対しての英文メール作成」・「デザイナーに対し、新商品へのアイディア出しに協力する」などのAI活用法を提案し、評価を高めていく。
一方で、SimDenim社の直営店は「薄利多売と店員の疲弊」・「SNS運用の伸び悩み」などの課題を抱えていた。これに対し、M.T.は先輩コンサルタントに「ある計画」を提案したのだが--

海外マーケティングに挑戦
M.T.と斎藤が居酒屋でミーティングを行った数日後。SimDenim社内では、活気のある報告が飛び交っていた。
伊藤由香(企画開発部長):
芽衣~、洋平く~ん、eBay(イーベイ)の商品紹介ページが出来たよ。確認してくんない?
鈴木芽衣(営業部員):
由香さん、分かりました! (パソコンモニター上のページを確認し)……ええ、英語の説明文ですが、文法や単語に問題はありません。紹介文は、由香さんが考えたものをAIが翻訳してくれたんですよね?
伊藤由香(企画開発部長):
そだよ~。やっぱり「発案者の思いを載せる」ってのは大事よね。自分の伝えたいことをこの子が訳してくれるからさ、「本業の合間を縫って翻訳してもらうのも気が引けるなー」なんて、あんたに遠慮する必要もないし。AIさまさまだわ。
鈴木芽衣(営業部員):
(苦笑しながら)由香さんの仕事を手伝うのは、別に嫌じゃなかったんですけど、翻訳の時間が浮いた分、美咲さんからの引き継ぎに回せる時間が出来たのには助けられてます。
伊藤由香(企画開発部長):
だってよ、美咲~。聞いてる~? 別に先輩面して芽衣をこき使ってたわけじゃないかんね~。
中村美咲(営業部員):
はいはい。分かってますよ~(笑)
田中洋平(営業部長):
(手元のチェックリストとパソコンモニターを見比べながら)……価格は299ドル。送料は別。発送方法はEMS。日本サイズの2Lであることを明記。各寸法は、センチメートル表記とインチ表記を掲載。”20th century”・”retro”など、キーワードも盛り込んでいる。
田中洋平(営業部長):
……うん、大丈夫だね!
伊藤由香(企画開発部長):
しっかし、いくらテストマーケティングとは言え、思い切った値段付けたねー。昭和レトロな絵柄のバックプリントで付加価値を付けたけどさ、元々は「2Lサイズのせいで売れ残り、廃棄処分になる予定の在庫」だったジャケットじゃん(笑)
田中洋平(営業部長):
「訳ありとは言え、縫製ミスなどの品質上の問題が無いんやったら、正規品と同じ値段を付けて販売テストした方がええで」ってのが、「マーケティングコンサルタント・モードになったOmniはん」の意見でしたからね。出品にあたってのチェックリストも作ってくれたし、参考になりますよ。
田中洋平(営業部長):
eBay出品中に購入希望者などから質問があった場合、まずは由香さんが対応してくれるんですよね?
伊藤由香(企画開発部長):
おう。企画した本人が対応した方がスムーズだと思うからね。英語で送られて来た質問でも、CopilotやGeminiにぶっこめば日本語に訳せるし、返事はOmniはんの助けを借りたらいいし。発送方法とかの質問だったら、営業部に振るわ。
田中洋平(営業部長):
(苦笑しながら)国内限定とはいえネット通販を先に始めたのは事実ですが、まだ始めて日が浅いので、僕らも素人同然なんですけどね(笑)
伊藤由香(企画開発部長):
分かったよ。そんじゃまずはOmniはんに聞くわ(笑) そういやあの子、「なんちゃらレート」とか言う数値目標も出してたよね?
田中洋平(営業部長):
「コンバージョンレート」ですね。「閲覧数200回につき1件成約したら上出来」でしたっけ。
伊藤由香(企画開発部長):
まー、あたしも詳しいことはよく分かんないけどさ、要は「冷やかし客ばかりで売れないってことは、どこかに問題がある」ってことでしょ? それに気付くためには、データが必要なんだよね。
田中洋平(営業部長):
そういうことですね。データ分析の重要性はOmniはんやコンサルの先生たちも言ってましたし、分析にはAIの力も借りれるので助かってます。
伊藤由香(企画開発部長):
いや、ホントAIさまさまだわ。このテストマーケティングでも完売してくれれば、あたしだって自信を取り戻せるし。
佐藤大輔(社長):
その意気だよ、伊藤くん。あなたには「過去の人」になって欲しくはないからね。
伊藤由香(企画開発部長):
うわー、ビックリしたー!! (振り向きながら、少し困り顔で)もー、社長ー、いきなり話に割り込んでこないでくださいよ~(苦笑)
佐藤大輔(社長):
ハハハハハ、驚かせてすまない(笑) しかし、最近の君の様子を見ていると、ウチに来てくれたばかりの頃を思い出してね。先日「テストマーケティングをさせてください」と企画書を突き付けてくれた姿、あれは10年前にそっくりだったなぁ……(笑)
伊藤由香(企画開発部長):
(苦笑まじりに机に突っ伏し)社長~、あの頃の私は若かったんッスよ~。「若気の至り」をほじくり返すんは勘弁してくださーーい!! (ガバっと跳ね起き)ってか、今日はAIコンサルさんとミーティングやなかったんですか?
佐藤大輔(社長):
ああ、そうだね。……そろそろ時間なので、私はこれにて失礼するよ。完売するといいね。……いや、するさ!
そう言い残し、佐藤社長はM.T.・斎藤・高橋財務部長が待つ応接室へと移っていった。
次回予告と人物紹介
意気揚々と海外向けテストマーケティングに乗り出す伊藤たち。
そして、会議室のコンサルタントとSim Denim幹部たちは、いったい何を話し合うのか……。
次回もお楽しみに!
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