第4幕・第1話 「またもやトラブル――でも、頼みの綱は県外出張!?」

あらすじ

バブル崩壊・円高不況・リーマンショック……次々と襲い来る苦境を何とか乗り切り、「OEM工場に製造を委託し、自社は商品開発と直営店運営に注力」・「ネットショップ開設」・「SNSでの製品PR」などの方法で生き残りと再起をかける、地方のアパレル企業・有限会社SimDenim。

社内システムの抜本的な改善のため顧問コンサルタントの斎藤が連れてきたのは、「人間とAIが幸せに共存する未来を創る」というビジョンを掲げる生成AI活用コンサルタントM.T.であった。

SimDenim社の社員たちを前に、「生成AIによる業務の効率アップと社内システムの改善」を提案するM.T.。そして彼は、生成AIの実演として自らのアシスタントであるAIキャラクター「Omniはん」の会話デモを披露し、社員たちの興味関心を引き出すことに成功する。

AIとしての実務能力だけではなく、インターフェイスとしての設計も評価したSimDenimの佐藤社長は、お試しとして1ヶ月のパートナーシップ契約を結ぶのであった。

フォトリアリスティックな画像。水色のステッチが施されたジーンズと赤い色の布でステッチが施されたジーンズ

引き継ぎ資料を作ろう

Omniはんを紹介するという衝撃のプレゼンテーションから数日後、M.T.はSimDenim社を訪れ、生成AIが業務改善に適応できる箇所を同社社員と共に探っていた。

M.T.(破戒僧コンサルタント):
――そうですね。中村さんの場合、Omniはんと話しながら、ご自身の業務を細かく分解していってください。項目と判断基準が洗い出せれば、ロジックツリーやフローチャート……つまりは「こんな時にはこう処理してくださいという取り扱い説明書や指示書」が作れます。

中村美咲(営業部員):
分かりました。ありがとうございます。……けっこう大変ですね。

M.T.(破戒僧コンサルタント):
そこはOmniはんと一緒に、ボケやツッコミを交えてストレスを緩和させながら進めてもらえば(笑)

中村美咲(営業部員):
そうですね(笑) でも、「遊んでないで仕事しなさい!」って怒られないかしら?

M.T.(破戒僧コンサルタント):
(苦笑しながら)そこは、社長さんの懐の深さを信じるしかないですね。お試し契約の前に、Omniはんのキャラは紹介してましたので。「遊びの中に本質が宿る」という禅の心を理解していただきたい。

M.T.(破戒僧コンサルタント):
ああ、そうだ。中村さんが今まで送ったメールの一部をPDFなどの文書にまとめれば、Omniはんに読み込ませて内容や文体のサンプルにすることも可能です。顧客名や担当者名などは、ぼかすことでプライバシーへの配慮もできますよ。

中村美咲(営業部員):
(感心したように)へぇー、そんなことまでできるんですね! 引き継いでくれる芽衣ちゃんのためにも、資料作りを頑張らないと。

M.T.(破戒僧コンサルタント):
鈴木さんは田中営業部長さんと共に、首都圏の直営店視察ですか。

中村美咲(営業部員):
ええ、そうです。田中さんの外回り仕事の負担を減らせたらいいんですけど……あちらも小さなお子さんを抱えてますしね。
(心配そうに)でも、芽衣ちゃんもここに居た方が、AIの勉強や引き継ぎは進んだんじゃないかしら?

M.T.(破戒僧コンサルタント):
何名か不在でも、逆に今いる社員さんの仕事の分析に集中できるので、私としては問題ないですね。

中村美咲(営業部員):
(安心したように)そうなんですね。良かった~。

M.T.の柔軟な対応に一安心した中村美咲だが、そんな中、突如オフィス内に怒声が響き渡った。

伊藤企画部長、吠える!

伊藤由香(企画開発部長):
あー、もう! 何やってくれとんじゃい、委託先ー!!

一同の視線は、裏返しにしたジーンズを手に持ち困り果てた表情をしている伊藤に集中する。

佐藤千賀子(総務パート・社長婦人):
伊藤さん……お願いだから、ちょっと声のボリュームを考えてもらえるかしら?(苦笑)……誰かが電話対応中だったらどうするのよ?

伊藤由香(企画開発部長):
(バツが悪そうに)あー、スンマセン。……でも、トラブル発生なんですよ。すぐに対応しないと。

佐藤千賀子(総務パート・社長婦人):
いったいどういう事なの?

伊藤由香(企画開発部長):
次のシーズンからラインナップに加える予定のジーパンなんですけど、送られたサンプルをチェックしたら、裏側のステッチパターンを間違えてるんです。赤いラインが入るはずの箇所に、ありえない水色の糸がジグザグに縫われてる。量産ラインに乗る前に、修正の依頼をしないと……。

佐藤千賀子(総務パート・社長婦人):
それは大変ね。すぐに山本さんに連絡しないと……

伊藤由香(企画開発部長):
(イライラした様子で)山本さんはこんな凡ミスしないですよ! それを見込んで、高級品の製造をお願いしてるのに。やらかしてくれたのは、バングラデシュの委託先です!

伊藤由香(企画開発部長):
(困り顔で)あー、もう。すぐにでもバングラにクレームと修正依頼を送りたいところだけど、芽衣は洋平くんと一緒に東京出張でしょ? あたしの英語力でメールを送るなんて無理だし……緊急事態ってことで、芽衣に電話して助けてもらおうかしら?

次回予告と人物紹介


またも予期せぬトラブルが発生。しかし、今まで翻訳業務を手伝ってきた鈴木は、東京出張で不在――

このピンチ、どう乗り切る?

次回もお楽しみに!

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